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人間について真面目に考えてみるブログです。

滝浦静雄『時間』:どうして時間は不可逆とわかるのか。あるいは時間に関するファクターX

時間―その哲学的考察 (岩波新書 青版) 作者:滝浦 静雄 発売日: 1976/03/22 メディア: 新書 我々の肉体は日々老いてゆく一方で、決して若返ることはない。そのことだけでも十分に時間の不可逆性は証明されているように思える。 しかし滝浦は問題提起する。 「…

グレイス・ペイリー『その日の後刻に』:死せる言語で夢をみるもの

その日の後刻に (文春文庫) 作者:グレイス・ペイリー 発売日: 2020/07/18 メディア: Kindle版 グレイス・ペイリーの第3作品集。ずらりとタイトルが並ぶ目次のなかで『死せる言語で夢を見るもの』は一際目を引く。何か詩的に深みのあるマジメな内容なのでは…

ショートショート(掌編小説):暇つぶしに是非ご覧ください♪

note.com 4連休、本当はもっと怒涛の勢いで創作したかったのですが、というかいつもそう思ってて、頭のなかではそんな自分をイメージしているのですが、どうしても合間合間にボーっとしてしまって、もっと色々できたんじゃないかって自己嫌悪して、心のなか…

コロナ禍とさえ隔絶された孤独

今週のお題「2020年上半期」 テレビをつければwithコロナだとかコロナ以後だとか騒いでいて、ほうほうと思う。今日のクレヨンしんちゃん(昨日?)なんかもテレワークが題材になっていて、ここ最近では一番面白かった。 ただ、正直に言えば、どこか冷めている…

多川俊映『唯識とはなにか』:唯識哲学から考える安楽死(ついでに優生思想も)~暴走する理屈~

唯識とはなにか 唯識三十頌を読む (角川ソフィア文庫) 作者:多川 俊映 発売日: 2015/06/20 メディア: 文庫 唯識という言葉どおり、この仏教哲学によれば、まずはじめに、第八阿頼耶識がある。といって、無から有という風にそこから万物が生じるのでもなく、…

ショートショート(掌編小説):暇つぶしに是非ご覧ください♪

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ミシェル・ウエルベック『服従』:インテリの本質 (前編)

服従 (河出文庫) 作者:ミシェル・ウエルベック 発売日: 2017/05/19 メディア: Kindle版 《現実》という言葉で呼ばれているものほど、確実に存在しているくせに、その片鱗をさえ捉えがたいものはない。 しかしそもそも、我々は現実というものを可能的に想像し…

ベートーヴェン 交響曲第8番:ほとばしる恋の足音

www.hananoe.jp ベートーベンといえば第九であるけど、これだけを一番のシンボルにするにはもったない名曲がいくつもあるのは言うまでもない。 ところが、どうもこの第八だけはすこぶる評判がよろしくない。 しかし第九の次に何が好きかと問われれば、私は躊…

20代最後の夜

今週のお題「2020年上半期」 このテーマに関して、コロナ以外に何を書けばいいといのでしょう。 たとえば相変わらず独身で彼女がいないということでしょうか。 4月4日、おかまの日が誕生日ということもあり、「20代最後の夜は何もできなかった、それも割かし…

ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』:時空を超えた婚活戦争

時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF) 作者:ロバート・F・ヤング 発売日: 2017/02/23 メディア: 文庫 六月のあの金曜日の朝、公園のベンチに腰かけたロジャー・トンプソンは、オーブンのがちょうさながら、自分の独身主義が危機にさらされているとは少しも考えて…

危うい自殺報道

今をときめく人気俳優だけに、その死は誰にとっても大きなショックだし、同い年、一日違いの誕生日ということもあり、残念でならないのは私も同様だが、自殺は珍しいことじゃないし、今この瞬間にもこの世を去った人、去ろうとしている人、あるいは思いとど…

ボードレール『ANY WHERE OUT OH THE WORLD』:魂の夢見る跳躍

人生は一つの病院である。そこに居る患者はみんな寝台を換へようと夢中になつてゐる。 或るものはどうせ苦しむにしても、 せめて煖爐の側でと思 つて ゐる。 また 或る ものは 窓際へ行けば きつと よくなる と 信じてゐる。 ボードレール シャルル・ピエー…

情報の嵐と時代の記憶

人間の自己認識が先鋭化したおかげで、未来の人々は、この時代に何が存在し、何が消えたのか、考古学的な努力なくして把握することができるだろう。 それとも、残された情報があまりに多すぎて、却って把握は困難なものとなるのだろうか。はるか昔の栄光の記…

木下優樹菜の奇妙な好感度

お店は徒歩10分ほどのご近所ですが、ウーバーイーツさんに配達してもらってチップを払うのがすっかり週末の楽しみになってしまいました(笑) にしても、タピオカのもちもちした触感と黒糖の香りがたまりませんね!(^^♪ さて、本題ですが、現代の風潮といえば…

【日経BP】『絶望を希望に変える経済学』:第2章 100年後の高校生たち。移民について

絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか (日本経済新聞出版) 作者:アビジット・V・バナジー,エステル・デュフロ 発売日: 2020/04/17 メディア: Kindle版 なぜ移民をめぐってパニックが起きるのか。二〇一七年に国境を越えた移民が世界人…

【日経BP】『絶望を希望に変える経済学』第4章:差別はなくなるのか、フォーク定理について

絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか (日本経済新聞出版) 作者:アビジット・V・バナジー,エステル・デュフロ 発売日: 2020/04/17 メディア: Kindle版 伝統的な差別は次第に薄れてはいるものの、 上位カーストは下位カーストの経済状況…

川上未映子『夏物語』:少女の苦悩

夏物語 (文春e-book) 作者:川上 未映子 発売日: 2019/07/11 メディア: Kindle版 極貧生活の子供時代だった姉妹、夏子と巻子。妹の夏子は上京し、作家を目指しながら、やはり貧しい暮らしを続けていた。そんななか、9こ上の巻子と12歳になるその娘緑子が大阪…

イギリスが誇る現代の「画家の中の画家」 ピーター・ドイグ

peterdoig-2020.jp 6月から再開しているのですが、コロナ感染が連日200人越えしておりますので、10月の会期ギリギリまで待ってみようと思います・・・・ だけどやっぱり我慢できない! ということなので、公式サイトから1枚拝借しちゃおうかと思います(笑) …

【新刊】ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』:その2 金権政治のUSA

なぜ中間層は没落したのか:アメリカ二重経済のジレンマ 作者:ピーター・テミン,Peter Temin 発売日: 2020/05/29 メディア: 単行本 中間の消滅により、FTE部門と低賃金部門との間に乗り越え困難な分断が生じたとすれば、本来、単純な多数決で意思が決定される…

【新刊】ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』:その1黒人と偏見

なぜ中間層は没落したのか:アメリカ二重経済のジレンマ 作者:ピーター・テミン,Peter Temin 発売日: 2020/05/29 メディア: 単行本 偏見とは、根拠が乏しいから偏見というのである。しかし偏見の原因に根拠がないわけではない。火の立たないところに煙は立た…

ゴリ押しと宣伝

趣味が多様化した時代にあって、宣伝とゴリ押しの境は非常にシビアなものになっている。我々は自分の好みでないものを無理に勧められることを迷惑に思うし、嫌悪すら抱くことがある。もとより我々は、星が一つも付いていないものを買おうとは思わないし、誰…

その2【英語】哲学しながら英文読解【チャレンジしよう!(無謀)】素人がヘーゲル精神現象学を英語で読んでみた

The Phenomenology of Mind (Dover Philosophical Classics) 作者:Hegel, G. W. F. 発売日: 2003/11/19 メディア: ペーパーバック it seems to be the truest, the most authentic knowledge: for it has not as yet dropped anything from the object; it h…

オリンピック開催について思うこと

外では3密を避けつつマスクを付ける。屋内に入るときはしっかりと手洗いうがい。週末は極力外出を控える。とてもシンプルで、実践しやすいコロナ対策だ。 もっと徹底している人なんかもいて、たとえば私のよく使う勉強カフェでは、スタッフが定期的にデスク…

【英語】哲学しながら英文読解【チャレンジ!】素人がヘーゲル精神現象学を英語で読んでみた(1)

The Phenomenology of Mind (Dover Philosophical Classics) 作者:Hegel, G. W. F. 発売日: 2003/11/19 メディア: ペーパーバック THE knowledge, which is at the start or immediately our object, can be nothing else than just that which is immediate…

女性のための男学入門:ヤリモクの病(前編)

コロナ禍によってすっかり変わり果ててしまった世の中ですが、不思議なことに変わらないこともあるようで、はいそうです、今年もまた例年通り不倫問題が世間の注目をあびているのでした。 嫌味なインテリたちは鼻をつまんで素通りするのが習わしですが、どう…

ジーン・シモンズ(女優)その1 『聖衣』1953年

オードリーヘップバーンと同じ1929年生まれのジーンシモンズ。ヘップバーンほどの華やかさはないけれど、映画『聖衣』のヒロイン、ダイアナを演じるシモンズには、端麗とした美貌にくわえ、奥ゆかしく、ろう長けな愛嬌があり、百合の花がその弁の先をくるん…

5/28付の編集手帳に思う、SNSとは何であるか

今朝(5/28)の読売新聞の編集手帳が、ウェルズの『透明人間』に触れている。いわく、遁世から犯罪へと走る透明人間とSNSでの匿名投稿が似たようなものだと。そのうえで、匿名での誹謗中傷が、他人の家に忍び込み、落書きをして中傷を浴びせることと同じだと。…

はじめまして。

どうもこんにちは。serandです。 書評メインのブログになるかと思います、どうぞよろしくお願いします。 追い追い、 小説の批評であったり、哲学や思想の自分なりの咀嚼を綴っていこうと思います。 難解な純文学に限らず、軽く読み流せるような書物も、新た…