ベートーヴェン 交響曲第8番:ほとばしる恋の足音
ベートーベンといえば第九であるけど、これだけを一番のシンボルにするにはもったない名曲がいくつもあるのは言うまでもない。
ところが、どうもこの第八だけはすこぶる評判がよろしくない。
しかし第九の次に何が好きかと問われれば、私は躊躇なくこの第八を選ぶだろう。
迫りくる華やかなリズムは、どこか焦燥と緊張を感じさせる。「完全にあなたと一緒か、あるいはまったくそうでないか、いずれかでしか私は生きられない」とまで言わしめる激しい恋の情熱に舞い上がるベートーベンが、熱い鼓動のメロディを紡いでいるのだ。
胸をしめつける、その重苦しいはずの緊迫感の上を、神秘的な恋の美しき感情が、軽やかに跳んで戯れているように感じられる、極上の音楽だ。