serand park

人間について真面目に考えてみるブログです。

【新刊】ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』:その2 金権政治のUSA

 

にほんブログ村 本ブログへ

 

 

 中間の消滅により、FTE部門と低賃金部門との間に乗り越え困難な分断が生じたとすれば、本来、単純な多数決で意思が決定される純粋な民主主義の下では、圧倒多数の低賃金部門が政治的に力を持つことになるはずで、もってこの格差は是正されるものなのではないか、という素朴な疑問がある。
 そしてこの理屈を通すなら、ドナルド・トランプという現象はその最たる帰結、ないし是正に向けた一歩目とも言えない。

 

 しかし中位投票者定理に基づく予測によれば、ベル型曲線となるこの正規分布中央に位置するのは低賃金部門の人たちで、「はるか右側にいると考えられたトランプは、ホワイトハウスにはたどり着けないだろう」と考えられていたのだった。85p

 

 ということは、フィナンシャルタイムズ等彼らの見解に基づけば、トランプ大統領の誕生は、低賃金部門の格差是正の目論見によることではないことになる。すると冒頭のような理屈や、あるいは有識者たちがこぞっていうところのポピュリズム台頭とは異なる現象で、「経済格差→大衆の貧困化→大衆の結束→ポピュリズムの台頭→トランプ大統領」という因果の流れは、正確に現実に基づいている訳でないことになる。

 

 そこでピーターは、『政治の投資理論』を用いて別のアプローチを試みる。一体なにが投票の効果を決定するのか?

「投票者は通常、あらゆる争点について、入手費用のかかる情報を要する。この情報を入手するための時間や労力がないと、広告や支持政党頼ることになる。」100p
「投票者が頼りにするのは、自らの選考の組み合わせを魅力的に見せるために投資する豊かで強力な存在から受け取る信号である。」100-101p

「…(中略)。この図は政治資金の拠出が政党の得票のもっとも重要な決定要因になっていることを示唆する。…(中略)。金額が多いほど、得票も多くなる」102p

 

 

 ピーターの見解が正しければ、トランプ大統領誕生の実際の因果の流れは、まずFTE部門の富裕層との利害一致から始まることになる。トランプ自身も大変な富豪であるけど、富裕層が束になればそんなレベルではない。この束を動員できるかが当選の鍵となるわけだから、トランプが彼らに迎合するかぎりは大統領でいられるわけだ。

 

ところが、FTE部門と低賃金部門の利害は相反するのだった。

 

「…低賃金労働者を助ける最低限賃金や勤労所得税控除について…1%層の人々はこれらについて一般人よりもはるかに否定的にである。同様に、すべての子供に良質な学校を保証するための政府支出に対して、それが増税を必要とする場合には、支持率がはるかに低かった。」107-8

 

だけどそうすると、ドナルド・トランプとは一体何者なのか、ますますわからなくなる。富裕層の傀儡なのか、大衆ポピュリズムの申し子なのか、あるいはそのどちらでもあるのか。将又どちらでもないのか。

 

 さしあたり私はこう考える。まず、トランプの掲げるマニフェストや経済的意図が富裕層に与するものだった。そして大量の資金を通じて、挑戦的、攻撃的、人種差別的な発言が全米にくまなく流れた。それが低賃金部門の白人の気分を良くしたが、彼らに本当に必要な情報、実はトランプが自分らの利益とは相反するという確かな情報を得るに至らず、ただただ与えられる情報に踊らされた。

 

 要するに、目下の二重経済の状態では、富裕層といえども低賃金部門の支持を得なければ、少数派の彼らは政治的に優位には立てないのだが、支持を得るには自らの利益を手放して妥協するしかない。むろん、日頃から血眼になって節税を試みている彼らがそんなことをするはずはなく、白人至上主義という餌で釣り上げるしかないのだ。

 

 こうした状況を鑑みれば、次期選挙でトランプが落ちれば世界は良くなる、と信じられるほど単純ではないのだと思う。

 

 

 

 

 

還流

還流

 

 小説出版いたしました。よろしくお願いします!

 

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

ブログランキングに参加しております!応援クリックいただければ励みになります^^