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ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』:時空を超えた婚活戦争

 

時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 六月のあの金曜日の朝、公園のベンチに腰かけたロジャー・トンプソンは、オーブンのがちょうさながら、自分の独身主義が危機にさらされているとは少しも考えてはいなかった。(131p)

 と、始まる表題作。

 

 表紙のイラストからしてディズニー風のファンタジックな内容が連想されるが、一人の男をめぐる二人の女の、欲望渦巻くサバイバルとなっている。

 しかもその渦中の男・ロジャーといのがまた、理想を体現するそれとは程遠い、いささか社会不適合の感ある就職浪人で、工科大学を卒業して六度目の就職活動中だった。

 

 ほとんど需要のないテーマについて研究中で、その深遠な内容について瞑想にふけるという、少年期であればそこそこ女に好かれそうではあるが、いつまでも続けていると忽ちに非モテに転落するのだった。

 

 しかしどういう訳か、そんな彼の前に一人の美女が現れ、あれよあれよとプロポーズするにまで至る。

 ロジャーはもう彼女にぞっこんで、これまたどういうわけか、あとに現れた女に、すっとんきょんなSF話を聞かされ、論争を挑めばことごとく論破され、彼女との結婚を思いとどまるよう説得されたあげく、「あなたを連れてかえるわ」(151p)と一緒に来てほしい旨を切に申されても、彼の気持ちは少しも揺るがないのだった。

 

 一見すると、ロジャーは非モテからハーレム状態に転じたかのようだが、彼を待ち受ける運命は、その時点ではどちらも望ましい結果とはいえまい。

 だが、最後の最後で彼は、無垢という幸福を手にするのだった。つまりは、知らぬが仏、ということだろう。

 それににしても、この古典SFにも登場する、《どんなに自分の感覚で理想とは思えなくても、数値が良しと言えば理想なのだ》という発想は、2020年になっていよいよ現実的な話になってきたように思うのは錯覚だろうか。